#2109 / 古代ローマ帝国陸軍の強さ

 私は歴史物を読むのが趣味で、日本史、世界史についての読書は、幅広くやっておりまして。これまでに読んだ歴史書は、2千冊を越えていると思います。その中には、現代の我々が学ぶべきものが少なくありません。
 その中でも、私にとって印象深いのが、古代ローマ帝国の陸軍の戦略です。当時のローマの重装歩兵の強さは、他国を圧倒しており、古代ヨーロッパと地中海で一大帝国を築きあげるのに大きな力となりました。その強さを維持するための訓練は過酷をきわめ、実際の戦争で戦っている方がはるかに楽だったといわれています。また、ローマ軍の将軍に対する評価は厳しいものでありました。将軍に限らず、ローマ軍を率いる武将は、戦争に先立って、自分の作戦を上司に説明します。その戦いが作戦通りに展開し、勝利を得れば、その武将とその部下には然るべき褒賞が与えられます。典型的な褒賞は、征服した町を3日間自由に略奪することが許されることでした。略奪は過酷を極め、ローマ軍の通ったところは、惨憺たる有様でああったといわれます。ところで、ローマ軍にとって負け戦だったものが、予測できない嵐などの天変地異や流行病で敵が崩れて、棚ぼた式に勝利を得ても評価されないのです。褒賞もありません。古代ローマ軍は、過酷な鍛錬と緻密な作戦、それにしっかりした兵站プランに裏付けられて戦を遂行し、一大帝国を築きあげました。
 一方、1980年代以降の台湾のエレクトロニクス産業の急発展を見ていると、古代ローマ帝国とかなりの類似性を感じます。1980年代における台湾のプリント基板産業といえば、片面、両面回路が中心で、品質は悪く、日本からみれば安いだけが取り柄というレベルでありました。しかし、台湾は「石を投げると社長に当たる」というお国柄です。多くの人々が社長を目指して、ビジネス戦略を練り、実現性のある作戦を立てます。現在、エレクトロニクスやEMS、プリント基板産業で中核を成している大企業の多くが、1980年代には少人数のベンチャー企業で始まっています。しかし、これらのベンチャー企業の経営者は、実現性の高いビジネスプランを持っており、それに必要な技術や人材を集めました。ビジネスの成功の可能性が高いとなれば、投資家は積極的に資金を提供しました。その結果として、台湾のパーソナルコンピュータは、世界市場で圧倒的なシェアを確保していますし、EMS産業も、世界市場での存在感を大きくしています。最近では、半導体生産でも主要な位置を占めるようになっています。
 これに比べると、日本のエレクトロニクス産業はひ弱な印象を否めません。かつて、日本のエレクトロニクス企業は世界市場を席巻する勢いがありました。10社ほどの大手メーカーが、まるで仲良しクラブのように、同じような製品構成のビジネスを運営していたのです。一社が、ビデオを開発すれば、他のメーカーも、短時日のうちに同様の自社製品を上市しました。また、どのメーカーも、社内に半導体製造部門を持っていました。それが、21世紀に入ると、様子が変わってきました。薄型テレビ、携帯電話、パーソナルコンピュータというような主要製品のビジネスを維持できなくなり、事業の閉鎖、製造部門の身売りが相次ぎました。会社全体がなくなってしまったところも何社かあります。少し品のない言い方になりますが、「みんなで渡れば怖くない。」といって始めた、新規事業、新製品でしたが、「一人転けたら、皆転けた。」という結果になってしまいました。日本のメーカーに共通しているのは、経営者に戦略的な方向性が欠けていることです。外部環境が悪い時には、「今は我慢の時」と称して、リストラにはげみながら、ひたすら景気の回復を待っています。日本の大手企業では、長く勤めていれば、経営陣に加われるのが一般的ですので、しかたがないのかもしれませんが、これでは、社員がついてくるとは思えません。それが、台湾のベンチャー企業の場合は、社長である創業者は、自分のことですから、真剣に戦略を作りあげ、実施するための方策について考えます。古代ローマ帝国の将軍たちは、そこに自分と部下の命がかかっていましたから、真剣にならざるをえなかったのです。

DKNリサーチ 
マネージングディレクター 沼倉研史

今週のヘッドライン

  1. Apple(米国のエレクトロニクス企業大手)4/6
     iPhoneの次世代モデルのiPhone Flipは、もっとも信頼性の高いfoldable smartphoneをめざす。ディスプレイはクラックやキズがつきにくい材質。
     
  2. Gartner (米国の市場調査会社)4/6
     2021年における、世界のIT市場は、前年比8.4%増加の4.1兆ドルに達すると予測。
  3. Dell(米国のPCメーカ大手)4/6
     サーバーなどの液体冷却システムの冷媒の微量リークを検出する技術を実用化。
  4. Ersa GmbH(ドイツのエンジニアリング会社)4/7
     プリント基板の表面実装のためのリフローはんだ付けにおいて、はんだ中のボイドを最小限に抑えるプロセス条件を提供。
  5. Hon Hai Precision(台湾のEMS最大手)4/7
     3月の売上が底堅く伸び、2021年第1四半期の売上は、前年同月比で44%増で、過去最高を記録。
  6. Acer(台湾のエレクトロニクス企業大手)4/7
     新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要で、第2四半期の受注については楽観的な見方。
  7. FLEXTRONICS Intl.(米国のEMS大手)4/7
     MID(モールド)回路に、フリップチップボンディングのための金スタッドバンプを形成するプロセスを開発。電気的、機械的機能を併せ持つ。
  8. Taipei Times(台湾の新聞)4/8
     韓国のSamsung Electronics、LG Electronicsの第一四半期の営業利益は、約40%の増加。
  9. Microsoft(米国のソフトメーカ最大手)4/8
    データセンタ用に、新しい液体冷却装置発表。Wiwynn社との共同開発。
  10. Apple(米国エレクトロニクス大手)4/9
     サプライチェーンの部品供給能力が不足しており、ノートブックPC、タブレットPCの生産に深刻な遅れ。
  11. IDTechEx (英国の市場調査会社)4/12
     5G機器の成長により、今後10年間で、世界のプリント基板の絶縁材料の需要は大きく変わるものと予測される。エポキシの比率は大きく減少。
  12. IDC(米国の市場調査会社)4/9
     2021年第四半期における、世界のPCの出荷は、前年同期比55.2%増の8400万台。底堅い需要が続く。
  13. E-Ink(台湾の電子材料メーカー)4/9
     次世代のカラーeペーパー用インク材料プラットフォームとして、E Ink Spectra 3100をリリース。Electronic Shelf Label市場での応用を見込む。
  14. Samsung Electronics(韓国のエレクトロニクス大手)4/14
     世界のスマートフォン用のメモリーデバイス供給でシェアを伸ばす。昨年からDRAM、NAND合計で、49%のシェア。
  15. DIGITIMES(台湾の業界メディア)4/13
     2021年第1四半期における世界のPC出荷は8400万台で、前年同期比55.2%の増加。
  16. LG Electronics(韓国のエレクトロニクス大手)4/14
     米国Apple社のEVプロジェクトを想定して、カナダのパワートレインメーカーMagna International社と合弁会社を設立。

DKNリサーチのイベントスケジュール
*2021年4月26日10:30〜14:30「フレキシブルエレクトロニクスの市場と材料技術の最新動向」沼倉研史、サイエンス&テクノロジーオンラインセミナー https://www.science-t.com/seminar/B210456.html
*2020年11月30日午後1:00オンラインセミナー「厚膜印刷回路技術の最新動向―製造プロセス、導電性インク、絶縁・機能材料技術応用展開まで」沼倉研史、サイエンス&テクノロジー主催、https://www.science-t.com/seminar/B201100.html
*2020年8月26日午前13:00オンラインセミナー「モノコック印刷回路—三次元配線のための新しい回路技術」沼倉研史、ピーバンドットコム www.p-ba.com
*2020年8月27日オンラインセミナー「モノコック印刷回路」沼倉研史、サイエンス&テクノロジー https://www.science-t.com/seminar/B200840b.html
* 2020年1月20〜21日、「ウエラブルデバイスの印刷形成と材料に求められる課題」、最近の化学工学講習会、化学工学会関東支部主催、東京、早稲田大学55号館
※すでに終了したセミナーや講演であっても、使われたテキストはデジタルデータで利用可能になっていますので、ご希望があればご連絡ください。

最近のDKNリサーチの論文、出版物
* 連載「ポリイミドフィルムものがたり」沼倉研史、コンバーテック、加工技術研究会
* 連載「厚膜印刷回路入門」沼倉研史、エレクトロニクス実装技術、Gichoビジネスコミュニケーションズ
*「耐熱性透明フレキシブル基板の材料と加工技術」沼倉研史/溝口昌範、エレクトロニクス実装技術、2018年6月号、
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